最近は日本の食料自給率を向上させるべきだという報道がよくされます。日本の食料自給率は最低レベルです。実際、政府も現在約40%の自給率を、10年後を目処に50%に引き上げたい意向を持っているようです。では食料自給率を上げることは何故必要なのでしょうか。
現在は数々の問題によって、食料の増産に対する限界が囁かれています。有効な耕地を開拓するには限度があります。肥料や品種改良、機械化によって大幅に向上してきた面積辺りの収穫量にも、今後は以前のような効率化を出来ないとも言われます。さらに環境問題によって、一部の農地はかつてのような収穫が出来なくなるという説があります。それにもかかわらず、人口は増え続けています。さらに発展途上国の人々が、肉といった、より手間のかかるものを食べるようになってきています。近年のバイオエタノール生産の増加は、本来食料であるものを燃料として消費するため、実質的な食料の消費増となっています。食料の供給は限られているのに、消費量は増加するということです。
これは将来の食糧危機を示しており、食料自給率の低い日本にとっては危機的状況に見えます。実際、冷戦時代にアメリカはソ連に対する食料輸出を外交カードとして使用したと言われます。冷戦下でソ連はアメリカの最大のお得意様でした。アメリカは戦争などしなくても、食料輸出を止めるだけでソ連を屈服させられたということです。もし世界が日本に食料を売ってくれなくなれば、単純な計算上は40%の国民しか生き残れないことになります。もし食糧危機が起きたとき、あるいは戦争その他何かの大きな出来事が起きて日本に食料の供給がなくなったとき、日本はこのままの食糧自給率では大変なことになる。
でも本当にそうでしょうか。日本は食料自給率を上げることで、そのような危機を回避することが出来るのでしょうか。しかもたかだか40%が50%になることに、大きな意味があるのでしょうか。
私はそうは思いません。例えば食料の生産には、肥料を使うことが欠かせません。しかし日本はそれを大きく海外に頼っています。輸入肥料がなくなれば、40%の自給率は20%に低下するという試算もあります。さらに決定的なことは石油です。石油を使わなければ、トラクターもコンバインも動かないのです。鍬を使った手作業で田畑を耕し食料自給率を上げることが出来るわけがない。そして石油の殆どは輸入しているのです。
肥料や石油を大量に海外から輸入しておいて国内の自給率を上げたところで、日本にいったいどのような利益があるのか。休耕田を再利用し農業従事者を増やして食料の自給率が上がったように見えても、肥料や石油の輸入が止まった途端に自給率は暴落します。既に輸入しておいた数か月分の在庫の肥料や石油がなくなれば、途端に日本は飢餓状態になります。例え日本が食料自給率100%を達成したとしても、そんなものは幻に過ぎません。
基本的に資源のない日本は、常に海外から物資を輸入しなければ、国体を維持できないということを忘れてはいけません。そのためには日本は強みのある製造業・サービス業を発展させて外貨を稼ぎ、海外の国家と良好な関係を築き、食料・物資を安定的に輸入出来る体制を維持することに力を注がなければなりません。
そもそも自給率が下がったのは何故なのか。原因の一つは、日本の農業に国際競争力がないということです。多くの規制に縛られ、大量の小規模農家ばかりが存在し、儲からないビジネスです。第二次大戦後、小作農を解放し封建的社会を解消したという意味において、かつての規制と大量の小規模農家の存在は意味がありました。しかし時代は変わりました。地主から小作農を解放し、自立した生活が出来る人々を作るという時代では最早ありません。これからの農業は、国際的競争力を高めて儲かるビジネスとして自立できる産業になるべきです。そのための規制緩和といった農業改革には大いに賛成します。
しかしそれは自給率を上げることと混同されてはなりません。自給率を上げるために、他から予算を取ってきて助成金をばら撒いて自給率を上げても意味がありません。それは名目の自給率を上げるために、他の産業の競争力を削ぐことに過ぎません。日本の農業は大規模に改革されるべきです。しかしそれは強い魅力のある産業になるよう、規制緩和によってチャンスを与えつつも厳しい競争に直面するようになるべきです。それがうまくいけば、結果として自給率が上がることもあるでしょう。
それでも日本が物資の輸入なしで食料の生産が出来ないという構図に、何ら変化はありません。では何故食料の自給率にこんなに注目が集まっているのか。
詳しく調べたわけではありませんが、農水省の権益保護のためではないでしょうか。彼らも本当は肥料・石油の輸入なしで食料の生産が出来ないのはわかっているはずです。食料自給率の低さを理由に危機感を煽れば、農水省やその他農業関連の権力者は予算を獲得出来ます。それは彼らの新たな権力の獲得に過ぎません。食料自給率の上昇によって最も得するのは彼らであり、国民全体のためではない。食料自給率の問題の裏には、どうもそのような意図が隠されているように思えます。
食料自給率10年後に50% 米粉生産50倍、小麦倍増
12/02 22:36
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/201050/
石破茂農水相は2日、閣議後の記者会見で、現在40%の食料自給率を約10年後に50%に引き上げる政府目標を達成するための工程表を発表した。コメ消費の拡大と小麦増産が柱。農林水産省は来年の通常国会に、企業の農地賃借規制の緩和で、耕作放棄地など未利用地の有効活用を図り、自給率向上を目指す農地法改正案を提出する方針だ。
コメ消費拡大に向けての具体策としては、パンなどに新規需要が広がりつつある米粉の生産量を、平成19年度の1万トンから50万トンへと、50倍に拡大する。新規需要米に具体的な目標を政府が示したのは初めて。
このほか、国際的に高騰したトウモロコシの代替として期待される飼料米の生産は、19年度のゼロから26万トンに拡大、小麦生産も裏作を促して91万トン
から180万トンにほぼ倍増させる。大豆も23万トンから50万トンに拡大を図る。このほか、牛乳・乳製品の増産も盛り込んだ。
店頭から国産野菜が消える?
米・中が肥料の輸出を実質禁止
http://diamond.jp/series/inside/06_14_004/
国産の野菜がスーパーの店頭から消える可能性が出てきた。
化学肥料の原料であるリン鉱石の世界最大規模の輸出国である中国が実質的な禁輸措置に踏み切ったのだ。
今年4月、中国は化学肥料の輸出関税を100%と大幅に引き上げ、翌5月にはリン鉱石の関税も100%に引き上げた。
13億人という世界最大の人口を養うべく自国の農業向けにリン鉱石を活用するように方針を変更したためで、実質的には禁輸措置に近い。
肥料の3大要素といえばリン、窒素、カリウム。この3つがなければ日本の農業は成立しない。にもかかわらず、日本はリン鉱石の全量を輸入に頼っており、その多くを中国に依存。もともと、危うい立場にあった。
国際的な資源獲得競争のなかで、日本では原油や食料価格の高騰ばかりに目が向いているが、国際的には肥料も同じように重要視されている。
「米国地質調査所が戦略的物質として位置づけた8つの資源のうち、6つは金や銅などのメタルだが、残り2つは肥料に必要なリン鉱石とカリウム」と、資源問題に詳しいジャーナリストの谷口正次氏は説明する。
中国に限らず、中国に並ぶ世界最大のリン鉱石の生産国である米国はすでに輸出を禁止している。ロシアなどでも産出されるが、国際的に品薄状態が続いており、すでにリン鉱石、窒素、カリウムは、ここ数年で2~5倍も価格が上昇している。
今後、さらに入手困難になれば、中国や米国以外の国も自国の農業のために禁輸措置に動く可能性もある。そうなれば、日本の農業は窮地に立たされる。
40%以下と先進国のなかで最悪の食料自給率を少しでも高めようと、農林水産省は、後継者不足の解消、減反政策の見直し、企業への農業の開放などさまざまな政策を打ち出そうとしている。だが、肥料がなければ国内農業生産増大は望むべくもない。
中国産ギョーザに農薬が混入されていた事件以降、安全性を気にする消費者のあいだでは国産の食品に対する人気が高まっていた。
しかし、中国からの肥料がなければ、食べるもの自体がなくなるかもしれない。それが日本の現状なのだ。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 清水量介)
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