中小企業は従業員教育をする余裕などないから教育をしないのか
「うちは大企業と違うのだから、従業員をちゃんと教育してやる余裕などない」
直接・間接にあちらこちらの中小企業からよく聞くことです。明日の手形の支払いの資金繰りにも苦労している中小企業ならば、これはとても当てはまることです。
一般的に中小企業では、態度・言葉遣いから専門能力、マネジメント能力まで、きっちりとした従業員教育をしている余裕などないと思っているでしょうし、実際それが出来ているところなど殆ど無いと言っていいでしょう。従業員教育は費用も時間もかかります。何せ従業員を働かせて利益を得る代わりに、費用をかけて教育をするのです。その間、従業員は何一つ生産活動をしません。それなのに会社はその間にも彼らに給料を払わないといけない。仕事を休止してまで教育をするなんて、馬鹿馬鹿しくてそんなことやってられないと思っている経営者もいるでしょう。必然的に中小企業の従業員教育とは、社員が先輩や上司について仕事をしながら業務を覚えていくOJT(On-the-job training)が主流となってくる。これならば一応生産活動をしながら教育にもなるわけなので、従業員に給料を払うのにも納得がいくというわけです。
では大企業、特に一流の大企業は時間も費用も余裕があるから従業員教育を充実させるのでしょうか。会社の利益を削ってまで余裕を見せてやりたいのでしょうか。一体誰にその余裕を見せてやりたいのか?そもそもそんなことして会社に何の得があるのか。
私は大企業が余裕があるから従業員教育を充実させているのだとは思いません。勿論、実際に余裕もあるでしょう。新入社員をすぐに働かせなくても、暫く会社を経営するくらいの力は持っているでしょう。しかしそれが本当の大きな理由ではないはずです。
私は一般的に見て、一流の大企業で十分な教育を受けている従業員とそうでない中小企業の従業員の間には、大きな能力の差があるように思います。大概の中小企業における労働者一人当たりの売上が、大企業の労働者一人当たりの売上よりも低いのも、この従業員教育の充実度との関連があると思います。実際に言葉遣いや態度一つをとってみても、大企業の従業員はかなりしっかりとしていることが多い。それを体感している人も私だけではないでしょう。まして業務を遂行するための専門能力・経営に関する専門知識とかになると、体系的に基礎から習っているものとそうでないものとの差は歴然としています。中小企業の従業員の中には、こんなことすら理解していないのかと唖然とする人に会うことが時々あります。勿論例外はたくさんありますし、中小企業ですこぶる優秀な人や大企業でまったく使いものにならない労働者もいるでしょう。あくまで一般論です。
結局のところ大企業は、一見損に見えても自ら費用を払い時間を費やして社員にしっかりと教育をするということが、長期的に見て最終的には会社のより大きな利益につながるということを知っているのです。従業員教育というのは投資であり、より優れた利益に貢献する従業員や組織を育てるための必要経費なのです。
中小企業の多くはこのことを理解していません。これは何人かの中小企業の経営層や中間管理職から直接聞いた話ですが、そのような人たちは社員が使えないやつが多いと嘆いています。一度指示したことや教えたことはすぐに覚え、自ら努力し勉強してしっかりと会社の業務についてきて利益に貢献できる人こそ優秀であるが、そんな人はあまりいないんだと言います。そして自分たちがそのような人を育てる努力をしていないことについて反省などすることもなく、またいつものように
「中小企業には従業員をちゃんと教育する余裕などない」
と平気で言って、自分が従業員を育てられなかった責任について考えもしない。きっちりとした教育をしていない自分が悪いという選択肢は最初から存在せず、従業員が使えないことだけを一生懸命に非難する。そのような人の中には、それなりの実績を残した人もいますし、だからそれなりの地位にいるのでしょう。しかし自分が出来たのだから、他人も出来て当たり前と考えている人が多い。人を育てるのも上の立場にいるものの業務の一つだということを正しく理解していない。ただ単に部下に発破をかければ、部下はついてくるし自ら努力するようになると思っているし、そのような圧力をかけることこそが従業員教育だと勘違いしている人もいる。
結局中小企業においては、教育で能力を磨かれること無く要求だけしてくる会社に失望して辞める人が多く、私は中小企業の離職率の高さの原因の一つであると推測します。そして会社は新たに人を雇わなければならず、そのためにまた先輩や上司に新人をOJTをさせることから始めることとなり、それが結果的に無駄な労力をかけることになります。
残念ながら自ら勉強して能力を上げられる人はあまりいない。そのような人が採用できれば幸運だくらいに考えたほうがいい。しかし普通の人でも、教育次第では十分に利益に貢献する人材になる。反対に優秀な潜在能力のある人でも、会社の従業員教育の方針しだいでは能力を発揮することなく終わることがある。優秀な人は数多くの候補者の中からよりすぐって採用するものでは必ずしもなく、採用した人を自ら多大な投資をして育てていくものです。そして育てた従業員から後でゆっくりと投資を回収するものだと思います。
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